第4回赤ちゃんの死を未来の子育てにつなげたい

レッサーパンダの飼育でいま力を入れるのが、「まい」と「レン」の間に生まれた赤ちゃんの死を未来へとつなげることです。2回目の出産に向けてより充実した環境をつくろうと、昨年11月にカメラやモニターを設置するための募金箱を園内に設置。今年4月までに35万円もの募金が集まり、そして6月に待望の第二子が誕生しました。

今年4月にレッサーパンダの巣箱に設置したカメラ

今年4月にレッサーパンダの巣箱に設置したカメラ

—昨年は大牟田市動物園で1997年にレッサーパンダの飼育を始めてから初の出産でした。3日で死んだのは残念でした。
河野さん 悔しかったです。
—原因について教えてください。
河野さん まいの母乳の出が悪かったのか、子どもの吸う力が弱かったのか、どちらかだったと思います。ビデオカメラの映像で異変に気づいて巣箱からすぐ取り出しましたが、間に合いませんでした。赤ちゃんの性別はオスで、体長10センチほどでした。まいが子どもの体をなめて、母乳をあげようとして、一生懸命世話をしていたことが印象的でした。赤ちゃんの死を無駄にせず、未来につなげていきたいです。
—具体的にはどんなことを考えていますか。
河野さん まいのサポートをしっかりしていきたいです。次に母乳の出が悪いと判断したら、「介添え保育」をしようと思っています。
—介添え飼育とはなんでしょう。
河野さん 子育てはまいがして、僕らがミルクだけをあたえるようにする方法です。母親と完全に離して人工保育する方法もあるのですが、それだとレッサーパンダ同士のコミュニケーションの取り方がわからなくなる可能性があります。攻撃的な場合など育児放棄を除いては、レッサーパンダのお母さんといっしょに暮らしてほしいです。
—カメラやモニターを設置する募金箱を設置していましたね。
河野さん 出産や子育てのようすをリアルタイムで観察する目的のためです。僕らが映像を確認するだけでなく、レッサーパンダが一生懸命子育てをしているようすをお客様にも見ていただきたいと思っています。小さな動物園の予算だけではたいへんなので、園内で寄付を呼びかけていました。募金してくださったみなさま、本当にありがとうございました。
屋内展示場を観覧するエリアにモニターを設置。誰でも巣箱や寝室内を見られる

屋内展示場を観覧するエリアにモニターを設置。誰でも巣箱や寝室内を見られる

河野さんは別の場所から映像を確認する

河野さんは別の場所から映像を確認する

—出産のスケジュールを教えてください。
河野さん まいとレンの交尾はすでに確認しています。妊娠していれば、6月半ばから下旬に出産予定です。レッサーパンダは出産に向けて巣作りを始めます。竹を歯でちぎり、細かく敷き詰めていきます。そういうシーンからお客さんに見てほしいので、カメラとモニターを設置しました。赤外線の映像で白黒にはなりますが、巣作りも子育ても貴重なシーンです。レッサーパンダは「偽妊娠」をすることがあり、出産に向けた準備をしながらも実は妊娠していないこともあります。気長に見守っていきたいです。
—レッサーパンダの飼育の目標はありますか。
河野さん レッサーパンダの魅力を知り、興味をもち、生態や保全などについての理解を深めてもらえることを目指しています。そのために僕にできることは、レッサーパンダの寝ている姿ばかりではなく、自然に近い行動を引き出してお客さんに見てもらうことです。また、研究にも積極的に取り組んでいきたいと考えています。レッサーパンダの健康を管理して出産につなげ、「種の保存」にも貢献したいです。
—目標がたくさんありますね。
河野さん あ、ボルダリングをどの壁面でもできるようにしたいし、レッサーパンダ舎の拡張もやりたいです……。飼育には終わりがないですが、やりがいがありますよ。

【ハピズー編集部より】
この取材が終わった後の6月26日未明に、大牟田市動物園でレッサーパンダの赤ちゃん1匹が誕生しました。まいとレンの第二子です。まいは赤ちゃんの体をなめるなどして子育てする姿が見られました。しかし、赤ちゃんと一緒に過ごさない時間が長く、赤ちゃんの体温が低くなったため、28日夕方に赤ちゃんを保育器に移動しました。7月16日現在、赤ちゃんは河野さんら飼育係の手によってすくすくと育っています。赤ちゃんは体が小さく、体温の維持が難しいため、お母さんの「マイ」と一緒に過ごすまでにはもう少し時間がかかるといいます。

人工保育に移ったレッサーパンダの赤ちゃんの体温測定

人工保育に移ったレッサーパンダの赤ちゃんの体温測定

順調に育ち、毛はふさふさしてきました

順調に育ち、毛はふさふさしてきました

河野さんのプロフィール

1991年12月21日、山口県下関市生まれ。山口県立農業高等学校から福岡ECOコミュニケーション専門学校(現:福岡ECO動物海洋専門学校)へ進学。2011年11月に岡山市の池田動物園に就職。2014年8月から大牟田市動物園へ。現在はキリン、レッサーパンダ、オオカンガルー、カピバラ、ケヅメリクガメなどを担当。動物の行動に関する研究やトレーニングによって得られるデータを活用できる研究などにも力を入れる。趣味は動物園巡り。子どもの頃の夢は牧場で働くこと。

(「レッサーパンダが『世界初』のボルダリングをはじめたわけ」の連載は今回で終わりです。データなどは記事公開時点の情報です)

福岡・大牟田市動物園

大牟田市に戦前の1941年開園しました。92年度には40万人を超えた来園者数もその後右肩下がりとなり、2000年代には13万人台まで減り、閉園が検討されたこともありました。近年は「動物福祉を伝える動物園」というポリシーの下、動物の豊かな暮らしを実現するための工夫が話題になり、17年度は入園者数が24万人を超えるまでのV字回復を果たしています。

所在地: 〒836-0871 福岡県大牟田市昭和町163番地
電話: 0944-56-4526
FAX: 0944-56-9551
メール: zoo@jupiter.ocn.ne.jp
ホームページ: http://www.omutazoo.org

福岡・大牟田市動物園

この動物園を応援する

ハピズーでは、大牟田市動物園とコラボして、飼育されているレッサーパンダをモデルにしたグッズを制作しました。大牟田市動物園で販売し、売り上げの一部は動物たちの飼育に役立てられます。

動物園の取り組みトップへ