第2回「ボルダリング」を始めたわけ

大牟田市動物園のレッサーパンダ舎をのぞくと、壁の一面がでこぼことしています。人の壁を登る競技「ボルダリング」といっしょで、レッサーパンダが実際にホールドを手がかりに壁を登るそうです。この動画は、世界の動物園関係者の間でもSNSで多数シェアされたといいます。

壁を登るレッサーパンダ

壁を登るレッサーパンダ

—レッサーパンダがボルダリングをするんですか。
河野さん えさをホールドの上に隠すと、10個くらいの取っ手(ホールド)を登って探しにいきます。

(動画はどちらも大牟田市動物園提供)

—迷いながらもよじよじとうまく登っていきますね・・・。なぜレッサーパンダ舎にホールドを設置したのでしょうか。
河野さん 動物園のレッサーパンダは、寝ているイメージがありませんか?
—木の上でぐてっとなっていることが多いですよね。
河野さん 主食の竹の葉っぱの栄養価が低いので、無駄なエネルギーを消費しないために寝ることが多いのです。レッサーパンダは樹上で生活しますから、木で寝るのはふつうの姿です。一方で、木で生活するので、垂直の木を登ったり細い枝を渡ったりするのもふつうの姿で、僕は彼らの動きの魅力的なところだと思っています。そんな行動を引き出して、お客さんに見てほしいと思いました。
—なるほど。
河野さん レッサーパンダにとって動物園は自然の行動圏と比べると狭い場所です。限られた飼育施設で何にも使われていないところがあるのは、もったいないと思っていました。壁もその一つでした。テレビでボルダリングを見ることがあり、これなら垂直に登る動きを引き出すことができるのでは、と考えました。
—どうやって作ったのですか。
河野さん 園長の許可を得て、全部DIYで作りました(笑)。ホームセンターで工具や材料を探し、板にねじ穴をたくさん作って、そこに角材をつけて、上からボルトで止めました。一部は寄贈していただいた人用のホールドを使っています。レッサーパンダに刺激や変化を与えられるようにするため、ホールドは数や角度を簡単に変えられる仕組みにしました。
—DIYが得意なのですね。
河野さん 大牟田市動物園では、飼育係全員で動物の暮らしを豊かにする飼育に力を入れています。そのために担当の飼育係がDIYで展示施設を変えていくことはめずらしくないんですよ。
—レッサーパンダの反応はどうでしょうか。
河野さん レッサーパンダがボルダリングをしてくれたので、動きを引き出すという意味ではやってよかったと思っています。フェイスブックに動画を投稿すると、世界の動物園の関係者もたくさんシェアしてくれました。
ボルダリングは、レッサーパンダの行動の選択肢を増やす方法の一つです。他にも例えば、同じ空間で自然の木をやぐらのように組んでいます。園内に生えているヤマモモやアラカシ、ネズミモチなどの枝です。曲がりくねっていたり、枝分かれしていたりと、いろんな形のものを使うようにして、不定期で入れ替えています。レッサーパンダが木から木へとジャンプすることもあります。
レッサーパンダ舎にも河野さんの手作りの看板があふれる

レッサーパンダ舎にも河野さんの手作りの看板があふれる

—レッサーパンダはどう思っているんでしょうね。
河野さん 彼らの声は聞けません。レッサーパンダにとって「いいこと」かどうかは、行動時間の長さやストレスホルモンなどを継続的に調べて客観的に評価する必要がありますが、まだそこまで追いついていません。ただ、限られたスペースで退屈しないようにいろんな選択肢を用意することで、レッサーパンダにさまざまな刺激があることは、飼育下の豊かな暮らしにつながると思っています。
本当は動物園の施設を広げたいのですが、経営の問題で簡単ではありません。でも飼育係は動物の命を預かっているので、限られた環境、予算の中でも動物の生活を充実させていくことをあきらめてはいけないと思っています。

(「第3回「豊かな暮らし」のために検診、歯みがきも」に続きます。データなどは記事公開時点の情報です。)

河野さんのプロフィール

1991年12月21日、山口県下関市生まれ。山口県立農業高等学校から福岡ECOコミュニケーション専門学校(現:福岡ECO動物海洋専門学校)へ進学。2011年11月に岡山市の池田動物園に就職。2014年8月から大牟田市動物園へ。現在はキリン、レッサーパンダ、オオカンガルー、カピバラ、ケヅメリクガメなどを担当。動物の行動に関する研究やトレーニングによって得られるデータを活用できる研究などにも力を入れる。趣味は動物園巡り。子どもの頃の夢は牧場で働くこと。

福岡・大牟田市動物園

大牟田市に戦前の1941年開園しました。92年度には40万人を超えた来園者数もその後右肩下がりとなり、2000年代には13万人台まで減り、閉園が検討されたこともありました。近年は「動物福祉を伝える動物園」というポリシーの下、動物の豊かな暮らしを実現するための工夫が話題になり、17年度は入園者数が24万人を超えるまでのV字回復を果たしています。

所在地: 〒836-0871 福岡県大牟田市昭和町163番地
電話: 0944-56-4526
FAX: 0944-56-9551
メール: zoo@jupiter.ocn.ne.jp
ホームページ: http://www.omutazoo.org

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ハピズーでは、大牟田市動物園とコラボして、飼育されているレッサーパンダをモデルにしたグッズを制作しました。大牟田市動物園で販売し、売り上げの一部は動物たちの飼育に役立てられます。

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