第5回開発進む故郷に「ふくちゃんの森」

ボルネオ島のキナバタンガン川でえさを食べるボルネオゾウ(BCTJ提供)

ボルネオ島のキナバタンガン川でえさを食べるボルネオゾウ(BCTJ提供)

ふくちゃんの故郷ボルネオ島は、日本から約4000キロ離れた東南アジアに位置します。島の面積は世界で3番目に広く、日本の2倍あります。ボルネオゾウたちが大自然の中でゆったりと過ごす一方で、開発により生息地は減り、人とゾウの軋轢が生まれています。日本もこの開発に無関係ではありません。連載の最終回は、ボルネオで保全活動を続ける認定NPO法人「ボルネオ保全トラスト・ジャパン」(BCTJ)事務局長の青木崇史(あおき・たかし)さんに聞きます。

ボルネオにだけ推定2000頭、絶滅の危機

—ボルネオゾウのことを教えてください。
青木さん ボルネオゾウはアジアゾウの仲間で、ボルネオ島の北東部だけに生息するゾウです。体が小さく、長い尾が特徴です。ボルネオの動物では、ボルネオオランウータンやテングザルとともにシンボル的な存在です。生息数は約2000頭と言われ、絶滅が心配されています。
ボルネオゾウは、謎に包まれたゾウでもあります。もともとボルネオ島にいたのか、アジア大陸から移動してきたのか、絶滅したジャワゾウの子孫なのか、その出自は正確にはわかっていません。
—ボルネオ島でも一部にしかいないのですね。
青木さん 主にボルネオ島北部のサバ州、そのなかでも東側だけに住んでいて、森を回遊しながらえさを食べて暮らしているようです。サバ州を流れるキナバタンガン川でボートに乗ると、観光客でもボルネオゾウを見られることがあります。私も去年の6月に行った時、お昼過ぎにボートから30頭ほどの群れのボルネオゾウが川沿いでえさを食べているところを見ました。でも、一昔前まではボルネオゾウは現地の人でもなかなか出合えない存在だったと聞いています。
さまざまな希少種が暮らすボルネオの大自然(BCTJ提供)

さまざまな希少種が暮らすボルネオの大自然(BCTJ提供)

人前に出ることが増えてきたボルネオゾウ(BCTJ提供)

人前に出ることが増えてきたボルネオゾウ(BCTJ提供)

人との軋轢、原因はアブラヤシ農園開発

—昔はなかなか会えなかったのですか。
青木さん 地元の人にとっては、「パオンパオン」と鳴き声だけ聞こえてくる幻の動物で、人前に姿を見せることは少なかったそうです。でも森の開発によって環境が変化し、人の近くに出てくるようになり、ゾウと人が接触する軋轢が出てきています。キナバタンガン川沿いに現れるのも開発によって生息できる場所が限られてきたからかもしれません。
—なぜボルネオゾウと人との軋轢が生まれるようになったのですか。
青木さん パーム油を取るために、アブラヤシのプランテーション(農園)の開発が進んでいるからです。1973年に5580万ヘクタール(日本の面積の約1.5倍)あったボルネオの森林は、2015年には3730万ヘクタールにまで減少しました。プランテーションや道路の開発などによって森が分断され、野生動物が暮らしにくくなっています。生態系が連続しなくなり、生物種が消えていくスピードが加速しました。サバ州のアブラヤシプランテーションの面積は1990年には27.6ヘクタールでしたが、2015年には155.4ヘクタールと5.5倍に広がり、州面積の21%を占めます。開発によって、「ゾウ害」が問題になってきたのです。
—ゾウ害ですか。
青木さん ゾウが回遊するときにプランテーションを避けて通ろうとしたら、その先に村があって畑の農作物を食べたり、村人をおどろかして怪我をさせたりしてしまいます。プランテーションに入ってしまうこともあります。アブラヤシの実は食べないのですが、成長する若い幹や芽などを食べてしまいます。ゾウが群れで同じ場所に長時間いると、大きな農業被害につながります。現地ではゾウを大切にしたいと思う人が多いですが、ゾウを「害獣」と考える人たちもいます。日本でもクマやイノシシ、シカによる人や農作物への被害が深刻になっています。大きくいえばこれと同じことです。
—農家にとっては、ゾウに悪さをされる。
青木さん ゾウは体重の5%ほどのえさを食べると言われています。体重2トンのゾウなら1日100キロほどの草や葉が必要です。開発する人や農家は困ってしまいますね。じゃまをするゾウを減らさなければと、2013年ごろは毒を入れたスイカをゾウに食べさせて殺すニュースが大きく報道されていました(*)。最近でもボルネオゾウに銃痕が見つかることがあります。

*AFP通信「絶滅危惧種のボルネオゾウ10頭が不審死 、毒殺の可能」

アブラヤシのプランテーション(BCTJ提供)

アブラヤシのプランテーション(BCTJ提供)

熱帯雨林(奥)とプランテーション(手前)が隣り合い、緩衝地帯の無い開発が進む(BCTJ提供)

熱帯雨林(奥)とプランテーション(手前)が隣り合い、緩衝地帯の無い開発が進む(BCTJ提供)

ボルネオゾウと共生の道を模索

—プランテーションはいらないと。
青木さん 違法なプランテーションは認められませんが、保全活動でプランテーション全てを敵視しているわけではありません。まずプランテーションを無くすというのは、現実的ではありません。地元の人にとっては、外貨を稼ぐために重要です。パーム油は生産量世界1位の油脂で、代わりの油でまかなうことは難しい状況です。生産量2位の大豆油や3位の菜種油より生産効率が高く、今後も人口が増えていく人間の需要を支える植物油はパーム油しかないと言われていいます。
—でも開発で動物たちの暮らしが変わりました。
青木さん 開発によって一番迷惑を被っているのは、声をあげられない動物たちです。ボルネオゾウをはじめ絶滅の危機にある動物が多く、生物多様性を守るためにもボルネオの自然環境の保全は必要です。BCTJでは人間も動物も持続可能な道を歩める方法を、サバ州の野生生物局と共に考えて行動しています。
 人間とのトラブルで母ゾウが殺されたり、群れからはぐれたりして、孤ゾウになった赤ちゃんゾウも増えています。こうなると野生で生きていくのは難しくなります。サバ州野生生物局は孤ゾウを保護して、保護施設でミルクを3時間おきに飲ませて育て世話をしています。畑を荒らしたゾウも保護して遠く離れた保護区の森に戻す活動を続けています。でも、森に返したらまた畑を荒らしてしまうことがあり、野生に戻せないゾウも増えました。ゾウの保護施設はBCTJが協力して作ったものも含めて3箇所ありますが、どこも飽和状態になりつつあります。
—どうやって共生すればいいのか、難しい問題です。
青木さん 私たちは「緑の回廊プロジェクト」という取り組みも進めています。分断された野生生物の生息地をつなぎ、動物が自由に行き来できる移動通路を確保します。森と森をつなぐことで動物は行動範囲が広がり、人との軋轢を減らすことができます。生物多様性の保全の有効な手段だと考えています。
2018年4月までに緑の回廊は、71.54ヘクタールになりました。この中には、福山市立動物園の「ふくちゃんの森」(2.46ha)もあります。多くの方がこの森を作るために募金をしてくださいました。日本で唯一暮らすボルネオゾウふくちゃんのためにも、ボルネオでのゾウと暮らせる未来を模索し続けていきます。
—私たちにできることはありますか。
青木さん パーム油は、インスタント麺にポテトチップス、食品、洗剤などさまざまなものに大量に利用されている、日本でもおなじみの油です。食品表示では「植物油脂」とされることが多いです。フローリング材や家具などの熱帯材にも使われます。私たちの便利で快適な暮らしはボルネオのおかげとも言えます。ただ地球は人間だけのものではありませんから、動物たちが安心して暮らせる環境を守るために考え、行動することが大切と思います。
保護施設で赤ちゃんのボルネオゾウにミルクを飲ませる青木さん(BCTJ提供)

保護施設で赤ちゃんのボルネオゾウにミルクを飲ませる青木さん(BCTJ提供)

広島・福山市立動物園

1978年に福山市が私立動物園を引き継ぎ開園した動物園です。緑の木々など四季折々の自然環境に恵まれた丘陵に位置しています。 大きな動物園ではありませんが、動物との距離が近く、動物の息遣い、匂い、表情等が間近で感じ取れる動物園として多くのお客様に親しまれています。

所在地: 〒720-1264 広島県福山市芦田町福田276−1
電話: 084-958-3200
FAX: 084-958-3022
ホームページ: http://www.fukuyamazoo.jp/

広島・福山市立動物園

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ハピズーでは、福山市立動物園とふくちゃんの結核の闘病を支えるためのクラウドファンディングを2018年9月〜11月に実施。結核の検査キット、暮らしを豊かにするエンリッチメントアイテム、機械式ミストの設置などが目的です。

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