第4回幸せな暮らしを追求して

 たくさんのタイヤで遊ぶふくちゃん

たくさんのタイヤで遊ぶふくちゃん

動物園の限られた環境の中で、動物たちが「幸せ」に暮らすための具体的な取り組みがあります。動物園で「環境エンリッチメント」と呼ばれています。ふくちゃんの飼育にも取り入れられて、結核の治療にも大きな役割を果たしました。ふくちゃんの飼育を担当する飼育員、萩原慎太郎さん(33歳)に聞きました。

廃材を活用して遊び道具に

—ふくちゃんの結核の投薬が10月末で終わりました。2年半もの間、ずっとそばで支えてこられました。
萩原さん 何とか治してあげたいと思っていました。いくら僕らが治療したいと思っても、生きる気力のない動物は助けられません。でもふくちゃんには、生きたいという気力があり、弱ってはいましたが立とうとしていました。だからこそ、治してあげたいという思いがより強くなりました。ふくちゃんからは「粘り強くやる」ことの大切さを学びましたね。治療についても、生きるということについても。
—今回はふくちゃんのエンリッチメントについて教えてください。そもそもエンリッチメントって何ですか。
萩原さん いかに飼育動物が幸せに暮らせるかというアニマルウェルフェアの考え方にそって行われる飼育の工夫です。野生と違い、動物園では動物の暮らせる環境や資源が限られています。その中で過度なストレスを減らすための工夫を飼育に取り入れています。
—どんな工夫をされているのですか。
萩原さん 僕がふくちゃんの飼育担当になったのは2010年です。それから、廃材のタイヤや消防ホース、ロープ、竹などをリサイクルして、ふくちゃんが遊べる道具を作ってきました。ふくちゃんがえさを探し、取り出し方を自ら考えて獲得する課題解決型の取り組みにもチャレンジしています。例えば、運動場の土にえさを隠したり、ロープを通した消防ホースや小さな穴をあけた竹筒、結んでコブを作った消防ホース、キューブ型に編み込んだ消防ホースなどのフィーダー(えさ入れ)を使ったりしました。
 丸太+タイヤの遊具で遊ぶふくちゃん(福山市立動物園提供)

丸太+タイヤの遊具で遊ぶふくちゃん(福山市立動物園提供)

 結び合わされた消防ホースを頭に乗せるふくちゃん(福山市立動物園提供)

結び合わされた消防ホースを頭に乗せるふくちゃん(福山市立動物園提供)

 ジャバラに編み込んだ消防ホースに隠されたエサを取るふくちゃん(福山市立動物園提供)

ジャバラに編み込んだ消防ホースに隠されたエサを取るふくちゃん(福山市立動物園提供)

 上から吊るされたエサを取りに行くふくちゃん(福山市立動物園提供)

上から吊るされたエサを取りに行くふくちゃん(福山市立動物園提供)

行動を調べて科学的に効果を検証

—ふくちゃんもストレスを感じている。
萩原さん 動物が同じ場所を行き来したり、体を左右に揺らしたりするのは、過度なストレスがかかっている状態です。この「異常行動」が長く続くと、心理的に悪い影響が出てきます。また、身体的な悪影響もあり、特に免疫力が低下するなど健康面にも影響します。
—そこでエンリッチメントが役立つのですか。
萩原さん 2010年にふくちゃんの行動を調査したところ、異常行動が展示時間の約60%を占めていました。この異常行動を減らすために、自由に動かす事ができる廃タイヤを与えてみたら、同じ場所を行き来する行動が約20%減りました。こうしてふくちゃんの行動を観察し、ストレスを減らすためにさまざまなエンリッチメントを試しています。
 タイヤ+消防ホースの遊具で遊ぶふくちゃん(福山市立動物園提供)

タイヤ+消防ホースの遊具で遊ぶふくちゃん(福山市立動物園提供)

免疫力の向上、結核治療に貢献

—結核の治療にも役立ったと聞きました。
萩原さん 結核菌は免疫力の低下により活発になります。ふくちゃんの行動したい欲求をみたし、ストレス反応を減少させることは免疫力の向上につながります。そこで 20~30種類のフィーダーや遊具などを作って設置し、行動を観察してきました。日々のトレーニングも健康管理につながっています。
—萩原さんはなぜエンリッチメントに関心を持たれたのですか。
萩原さん 学生の時に東海大学大学院で動物行動学や生態学を中心に研究し、特に地鶏やブロイラーなどの家畜にどんなエンリッチメントが有効かを考えてきました。実は、エンリッチメントを行う上でのアニマルウェルフェアの基本的な考え方は、1960年代にヨーロッパで家畜の飼育環境を改善させるために出てきたもので、動物園より早くからアニマルウェルフェアに配慮した飼育が行われています。
ゾウ舎前に立つ萩原さん

ゾウ舎前に立つ萩原さん

—そこからなぜ動物園に。
萩原さん なんで何だろう・・・ 。もともと動物が好きで、犬のトレーナーや牧場など、動物の飼育ができる仕事をしたいと考えていました。大学で家畜のことを学ぶ中で、動物園でもエンリッチメントの研究が行われてきたと聞いて、動物園の動物のために何かをしたいという思いが強くなりました。日本は欧米の動物園よりもエンリッチメントの導入・実施が遅れているということもありました。

ふくちゃん用の大型遊具を開発へ

—ふくちゃんのエンリッチメントでこれから考えていることはありますか。
萩原さん これまでは誰がどこの動物園でもできるように、また保護施設でも使えるように、廃材などを使ったお金をかけないエンリッチメントに取り組んできました。一方で、欧米の先進的なゾウ飼育では、大型で強固、機械式などの、日本ではなかなかお目にかかれないエンリッチメントアイテムが使用されています。 こうしたものをふくちゃんに使わせてあげたい!!と思うようになりました。
—ふくちゃんの暮らしを応援するクラウドファンディング(*)でエンリッチメントアイテム「ゴロゴロローラー(仮)」の製作が決まりました。萩原さんが用意された海外のエンリッチメントの実施例を元に考えられました。
萩原さん アメリカには動物園のエンリッチメントアイテムを作る専門の会社がありますが、日本にはありません。そこで人間用の遊具製造などで有名な福山市の地元企業「タカオ」さんに協力していただき、日本ではめずらしいゾウ用の大型遊具を開発します。直径約70センチ、高さ140センチの金属製の円柱を横にして、ゴロゴロと転がすことができます。転がると中央にチェーンで固定してあるエサ入れが揺れて、好みのえさが出てくる仕組みです。もちろん、ふくちゃんが踏んでも壊れません。

結核にかかったゾウ「ふくちゃん」を救いたい!

タカオの担当者(左)と寺岡園長(右)とエンリッチメントアイテムの打ち合わせをする萩原さん

タカオの担当者(左)と寺岡園長(右)とエンリッチメントアイテムの打ち合わせをする萩原さん

ふくちゃんのエンリッチメントアイテムの開発イメージ(福山市立動物園提供)

ふくちゃんのエンリッチメントアイテムの開発イメージ(福山市立動物園提供)

ふくちゃんを通じて伝えたいこと

—完成が楽しみです。ふくちゃんを通じて伝えたいことはありますか。
萩原さん 一つは、エンリッチメントのことです。運動場では、タイヤで遊んだり、エサを探したりする姿を見られますので、ふくちゃんの動きや幸せについて思いをよせてみてほしいです。飼育動物の幸せを考える取り組みはますます重要になると思っています。個人的にはもっとデカい飼育施設を作りたいのですが・・・。

もう一つは、ふくちゃんはもともと野生動物で、わざわざボルネオから福山まで来てくれた。これはどういう意味なのか、ということを考えないといけないと思っています。日本でも使われているパーム油を得るための開発で、ボルネオゾウの生息地が減っています。ふくちゃんを見て、ただ「かわいい」だけでなく、ふくちゃんからボルネオのことを考えて、どう我々は行動するか、といった気持ちになってもらえるように、私たちがやらないといけないことがまだあると思います。

(第5回「開発が進む故郷ボルネオ」へに続きます)

広島・福山市立動物園

1978年に福山市が私立動物園を引き継ぎ開園した動物園です。緑の木々など四季折々の自然環境に恵まれた丘陵に位置しています。 大きな動物園ではありませんが、動物との距離が近く、動物の息遣い、匂い、表情等が間近で感じ取れる動物園として多くのお客様に親しまれています。

所在地: 〒720-1264 広島県福山市芦田町福田276−1
電話: 084-958-3200
FAX: 084-958-3022
ホームページ: http://www.fukuyamazoo.jp/

広島・福山市立動物園

この動物園を応援する

ハピズーでは、福山市立動物園とふくちゃんの結核の闘病を支えるためのクラウドファンディングを2018年9月〜11月に実施。結核の検査キット、暮らしを豊かにするエンリッチメントアイテム、機械式ミストの設置などが目的です。

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