第2回結核を乗り越え21歳のバースデー【後編】

誕生日会でプレゼントされた「ごろごろローラー」で遊ぶふくちゃん

誕生日会でプレゼントされた「ごろごろローラー」で遊ぶふくちゃん

ふくちゃんにプレゼントされた大型のエンリッチメントアイテム「ごろごろローラー」は一体、どんなものなのでしょうか。誕生日会の終了後、クラウドファンディングの支援者向けに行われた飼育担当者によるごろごろローラーの開発秘話から紹介します。

2年半の結核治療の奮闘に大型の「おもちゃ」をプレゼント

わかりやすく言うと大型のおもちゃ、遊具ですが、本文ではエンリッチメントアイテム(飼育動物の豊かな生活のための道具)とします。そのごろごろローラーを紹介するために、まずふくちゃんの結核について振り返ります。

16年3月、ふくちゃんは結核を発症していると診断されました。結核の影響で体調が悪化し、何も食べられなくなり、300キロほどやせた時期もありました。ねばり強く治療してきた獣医師や飼育係でさえ、「もうだめかもしれない」と思うような命の危機が2度ありました。

国内では初となるゾウの結核治療。ふくちゃんが嫌がる苦い薬を糖蜜と混ぜて団子にして食べさせたり、耐性ができて効かなくなった薬を別の薬に変更したり。試行錯誤の治療を続け、18年10月に薬の投薬期間を無事に終えました。

ふくちゃんは元気を取り戻しましたが、完全に治ったわけではありません。いまも「経過観察」の状態が続いています。

ピーク時から300キロやせた時のふくちゃん。大好物のようかんすら口にしなかった=福山市立動物園提供

ピーク時から300キロやせた時のふくちゃん。大好物のようかんすら口にしなかった=福山市立動物園提供

4月29日の誕生日会の時のふくちゃん。ふっくらとして、元気を取り戻した

4月29日の誕生日会の時のふくちゃん。ふっくらとして、元気を取り戻した

福山市立動物園では、ふくちゃんの豊かな暮らしを追求するエンリッチメントに力を入れています。消防ホースで作ったフィーダー(えさ入れ)や廃タイヤをふくちゃんに使ってもらい、運動の促進やストレスの解消に役立てています。こうした取り組みが、ふくちゃんの結核治療でも免疫力の向上につながったと言われます。

体重2700キロのふくちゃんにその力を生かして遊んでもらったり、これまでとは別の動きを引き出したりするには、大型のエンリッチメントアイテムが有効と考えられます。しかし、廃タイヤなどと違い多額の費用がかかる大型のものは動物園だけの予算では作れませんでした。

消防ホースで作ったフィーダー。ふくちゃんは鼻を器用に使ってサトウキビを取り出します

消防ホースで作ったフィーダー。ふくちゃんは鼻を器用に使ってサトウキビを取り出します

サトウキビを全部食べ終わると飼育係の元に運び、「おかわり」を催促したふくちゃん

サトウキビを全部食べ終わると飼育係の元に運び、「おかわり」を催促したふくちゃん

18年10月から11月、ふくちゃんの結核の回復と再発の防止を目的にクラウドファンディング 「福山市立動物園の結核にかかったゾウ『ふくちゃん』を救いたい!」を実施。その第二目標に、大型のエンリッチメントアイテムの開発を設定しました。

そして、全国から集まった約750万円の一部の資金を活用して、ごろごろローラーの開発がスタートします。4月29日の誕生日会でふくちゃんに初めて「完成品」を使ってもらいました。

全国の931人の方々から749万3000円の資金が集まったクラウドファンディング

全国の931人の方々から749万3000円の資金が集まったクラウドファンディング

クラウドファンディング「福山市立動物園の結核にかかったゾウ「ふくちゃん」を救いたい!」はこちらから

完成品のごろごろローラーで遊ぶふくちゃん。勢いよく転がらないようチェーンでつないでいる

完成品のごろごろローラーで遊ぶふくちゃん。勢いよく転がらないようチェーンでつないでいる

試作品よりえさを取り出しにくくする改良を重ねた

ごろごろローラーは、ステンレス製で円筒形。直径70センチ、長さ140センチ、重さ200キロ。転がすと中からえさの落花生や黒砂糖が出てくる構造です。

誕生日会後に行われたクラウドファンディング の返礼品のひとつの誕生日会優待者向け講演会で、ふくちゃんの飼育担当・萩原慎太郎さんは動物福祉の考えが進んでいる米国のエンリッチメントアイテムを参考にごろごろローラーを開発したと説明しました。国内でこうした大型のゾウのエンリッチメントアイテムの導入は、初めてといいます。

ごろごろローラーの開発でタッグを組んだのは、人向けの遊具製造で有名な福山市の地元企業「タカオ」。 まず試作品を作り、課題を洗い出して、完成させる流れです。

誕生日会後、クラウドファンディング の支援者を対象にごろごろローラーについて語る萩原さん

誕生日会後、クラウドファンディング の支援者を対象にごろごろローラーについて語る萩原さん

試作品を使う様子などを映像や写真を交えて説明した

試作品を使う様子などを映像や写真を交えて説明した

試作品で心がけたのは、「簡単に使えることと、触って行動してもらうこと」と萩原さん。動物園が労力と時間をかけて作ったエンリッチメントアイテムを動物が「異物」とみなし、触ってくれないことがあるためだといいます。

萩原さんは、試作品が導入されると、目視に加えて映像で使用時間や頻度を確認するなどデータを集めました。

試作品の導入1日目、ふくちゃんは脚でけったり鼻で押したりと、約2時間にわたり試作品を触りました。転がすとえさが出てくる仕組みがわかってきたようですが、ふくちゃんはえさを食べませんでした。ごろごろローラーに対して警戒心が強かったようです。

2日目になると、転がして出てくるえさを食べるようになります。7日目には、ごろごろローラーの上に脚を乗せ、これまで届かなかったカシの木の葉に鼻を伸ばして食べる姿も確認されました。これは予想外の使い方でした。「えさが出てくる仕組みだけでなく、乗って葉を食べられることを学習した。やはりふくちゃんは頭がいいですね」と萩原さん。

一方で、ごろごろローラーを使う時間は、日が過ぎるとともに短くなる課題が明らかになりました。「10日目にはふくちゃんが外に出ている6時間のうち、使う時間は20〜30分になりました」。ふくちゃんにとってはえさが出てくる仕組みが簡単で、かつ大量に出てくるので、飽きてしまった可能性が高いといいます。

こうしたデータをもとに、動物園とタカオはごろごろローラーの改良を重ねました。大きな変更点は、えさが出てくるフィーダー部分を2タイプ作ったことです。えさの排出口の直径を6センチから5センチにして、少量しか出てこないようにしました。もうひとつのタイプはえさの排出口を狭くしたことに加え、内部で3つの「壁」を乗り越えないとえさが出てこない複雑な構造にしました。

ごろごろローラーの素材を鉄からステンレスに変更しました。「素材をさびにくくして、熱くなりすぎるのを避けるため」と萩原さん。さらにその周りにはラバーを貼りました。この主な目的は「既存の施設が壊れるのを防ぐため」です。長さ140センチ、重さ200キロもあるモノを運動場で使うことを想定していなかったためです。

鉄製の試作品のごろごろローラーとふくちゃん=3月、福山市立動物園提供

鉄製の試作品のごろごろローラーとふくちゃん=3月、福山市立動物園提供

転がすとえさが出てくることがわかったが、仕組みが簡単で使う時間が短くなった=3月、福山市立動物園提供

転がすとえさが出てくることがわかったが、仕組みが簡単で使う時間が短くなった=3月、福山市立動物園提供

ごろごろローラーの改善案を話し合う。青の制服を着るのがタカオの担当者=3月、福山市立動物園提供

ごろごろローラーの改善案を話し合う。青の制服を着るのがタカオの担当者=3月、福山市立動物園提供

誕生日会で公開された完成品。素材が鉄からステンレスになり、周りにラバーを貼った

誕生日会で公開された完成品。素材が鉄からステンレスになり、周りにラバーを貼った

SNS上ではこれだけ大きくて重いモノを使って、ふくちゃんがけがをしないかと心配する声もありました。萩原さんは「野生では3000キロのゾウ同士がぶつかり、たわむれますので、ふくちゃんにとって200キロはそれほど重いものではありません。ごろごろローラーにぶつかったり鼻先が巻き込まれたりしてけがをすることも知能的に心配はない」と説明しました。

誕生日会当日は、「えさが出にくくなった完成品を予想通り使ってくれてよかった」と萩原さん。これからも使用頻度などを継続してデータを取りながら、ふくちゃんのエンリッチメントに役立てていくと言います。

萩原さんのインタビューは、ふくちゃん物語の「幸せな暮らしを追求して」でも紹介しています

広島・福山市立動物園

1978年に福山市が私立動物園を引き継ぎ開園した動物園です。緑の木々など四季折々の自然環境に恵まれた丘陵に位置しています。 大きな動物園ではありませんが、動物との距離が近く、動物の息遣い、匂い、表情等が間近で感じ取れる動物園として多くのお客様に親しまれています。

所在地: 〒720-1264 広島県福山市芦田町福田276−1
電話: 084-958-3200
FAX: 084-958-3022
ホームページ: http://www.fukuyamazoo.jp/

広島・福山市立動物園

この動物園を応援する

福山市立動物園はふくちゃんの結核の闘病を支えるためのクラウドファンディングを2018年10月〜11月に実施。結核の検査キット、暮らしを豊かにするエンリッチメントアイテム、機械式ミストの設置などへの支援が目的で、931人から749万3000円が集まりました。

動物園の取り組みトップへ